こちょこちょ研究部

第3章健康器具部とのコラボ

7,313字約12分で読めます2026年10月29日
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手帳の後ろのページの正の字が、三つ目に入った。

ふわふわ手袋の「やり直し」の回も、なんとか乗りこえた。二回目は、バーを離さずに最後まで耐えた。正確には、耐えたというより、透子さんの計測時間が先に終わった。それでも、五千円は五千円だ。

腋の下は、三日くらい、服がこすれるだけでびくっとした。

「日向くん、今日はお客さんが来るよ」

ちゃぶ台で、大倉部長がお茶を淹れながら言った。湯のみが、いつもより一つ多い。

そのとき、非常階段のほうから、にぎやかな足音が聞こえてきた。がらがらがら、と台車の車輪が鳴る音もする。地下に降りてくる人なんて、めったにいないのに。

鉄の扉が、勢いよく開いた。

「透子ちゃん、できたよー!」

入ってきたのは、ショートカットの女の人だった。紺の作業着の胸に「健康器具部」と刺繍がある。台車には、段ボール箱が二つ積んであった。

「木戸さん。お疲れさまです」

奥から出てきた透子さんが、ぺこりと頭を下げる。

「健康器具部の主任の、木戸くんだよ」

部長が、私に紹介してくれた。

「健康器具部とうちは、昔から仲がいいんだ。同じ『体に触る商品』を作ってるからね」

「木戸美咲です。よろしくね」

木戸さんは、私を見るなり、ぱっと目を輝かせた。

「あなたが噂のテスターさん? 笑い指数が範囲外まで行ったっていう」

噂になっている。

「……日向です。噂って、どこで」

「社食で。透子ちゃんのデータ、うちの部でも回し読みしてるのよ。すごいわね、毎日のように範囲外って」

回し読みしないでほしい。


段ボール箱から出てきたのは、ブーツのような形をした、大きな箱型の機械だった。

白くて、つるんとしている。上のほうに、足を入れる穴が二つ開いている。ひざ下までを、すっぽり入れるらしい。

「アシモミ。うちの看板商品」

木戸さんが、機械の側面をぽんぽんと叩いた。

「足つぼと、ふくらはぎのマッサージ。発売から五年で、累計三十万台。会社で一番売れた健康器具よ」

「すごいですね」

「でもね、最近、売れ行きがちょっとね」

木戸さんは、少しだけ声を落とした。

「買ってくれるのが、ほとんどおじいちゃんおばあちゃんなの。若い人にも使ってほしいんだけど、足つぼって、地味でしょう。それで透子ちゃんに相談して、新しいモードを足したの」

「新しいモード」

「くすぐりモード」

ですよね。そうだと思った。

「アシモミ改。若い人向けに、足をくすぐって、笑ってストレス発散。うまくいけば、来年の春に商品化」

商品化。

その言葉に、私の背筋がぴんと伸びた。

部長の言葉を思い出す。来期までに商品が一つも出なかったら、ここは閉鎖。もし、アシモミ改が商品になったら。それは、こちょ研の、初めての商品だ。

「やります」

私は言った。手当の額を聞く前に言ったのは、初めてだった。

「頼もしい!」

木戸さんが、ぱちんと手を叩いた。

「じゃあ、素足になってね。足つぼだから」

足つぼマッサージ機なのだから、素足なのは当たり前だ。私は疑いもせずに更衣室へ行って、ストッキングを脱いできた。パンプスも脱いで、はだしで床に立つ。コンクリートの床が、足の裏にひやっと冷たかった。

リクライニングチェアに座って、アシモミ改の穴に、両足を入れる。中は、思ったより広かった。ふくらはぎのあたりに、やわらかいローラーが当たっている。足の裏の下にも、何かがある。でこぼこしたものと、ふさふさしたもの。

「はい、リモコン」

木戸さんが、白いリモコンを渡してくれた。ボタンは三つだけ。真ん中に、大きな赤い丸ボタンがある。「停止」と書いたシールが貼ってある。

これなら、絶対に押せる。配属初日のワラエールみたいに、手首を押さえられて届かないこともない。

「くすぐりモードのボタン設定は、うちの新人くんが組んだの。張り切ってたわよー」

木戸さんが、にこにこしながら言った。


「まずは、普通のマッサージモードから」

透子さんがタブレットをタップした。

ウィーン、と低い音がして、ふくらはぎのローラーが動き出した。下から上へ、ぐうっと押し上げるように、もみほぐしていく。

……気持ちいい。

思わず、ため息が出た。一週間、笑いすぎてがちがちになっていた体が、足元からほどけていく。足の裏のでこぼこが、ぐりぐりと土踏まずを押す。痛いけど、気持ちいい。これが、三十万台売れた理由か。

「今日は、当たりの日だ……」

「日向さん、顔がとろけています」

透子さんに指摘された。とろけてもいい。今日は、とろけさせてほしい。

ちゃぶ台では、部長が木戸さんにお茶を出していた。二人とも、のんびり世間話をしている。地下の部屋に、平和な時間が流れていた。

「では、ふくらはぎモードから、くすぐりモードへの切り替えを確認します」

透子さんが言った。

「はーい」

私はとろけたまま、返事をした。

カチッ。

ふくらはぎを押し上げていたローラーの動きが、ふっと止まった。かわりに、ローラーのすき間から、何かがしゅるっと出てきた。

細いブラシだった。

ブラシは、ふくらはぎを、下から上へ、さわさわとなで上げていく。ローラーと同じ動きのつもりなのだろう。でも、ローラーの勢いのまま上がってきたブラシは、ふくらはぎの一番上で止まらなかった。

膝の、裏まで来た。

「ひゃっ!?」

とろけていた体が、一瞬で固まった。

膝の裏の、くぼんだところ。皮膚がやわらかくて、ふだん誰にも触られない場所。そこを、細いブラシの先が、くしゃくしゃくしゃっとかき回した。

「ちょっ、ひゃっ、ひざっ、膝の裏っ、ふひゃっ!」

膝を曲げて、逃げようとした。でも、足はひざ下まで箱の中に入っている。膝を曲げても、箱ごと少し持ち上がるだけで、ブラシは膝の裏にくっついたまま離れない。

「ひゃっ、ひゃはっ、ふひゃははっ!」

「くふっ、ふふふっ、あはっ、あははははっ!」

『笑い指数 46』

「あら、膝の裏に届いちゃってる」

木戸さんが、湯のみを持ったまま、のんびり言った。

「ブラシのストロークが長すぎますね」

透子さんも、のんびり言った。

のんびりしないでほしい。

ブラシが、膝の裏のくぼみの中で、左右に細かく往復する。くぼみの両側の、すじになっているところを、一本ずつ弾くように。

「ひゃははっ、そこっ、すじっ、すじのとこっ、あっはははははっ!」

『笑い指数 58』

リモコン。リモコンがある。

でも、両手は、ひじ掛けにしがみついていた。膝の裏のくすぐったさが、太ももを伝って腰まで駆け上がってきて、手を離したら椅子から転げ落ちそうだった。リモコンは、膝の上に転がっている。手を伸ばす余裕なんて、どこにもない。

「あははははっ、ひゃっはははっ、くひゃははははっ!」

『笑い指数 64』

「切り替えの確認、終わりました」

透子さんが、タブレットをタップした。

ブラシが、しゅるっと引っこんだ。

私は、ひじ掛けにしがみついたまま、ぜえぜえと肩で息をした。膝の裏が、まだぞわぞわしている。

膝の上のリモコンを見た。

一度も、押さなかった。押すひまがなかった。


「膝裏、想定外にいい反応ね」

木戸さんが、ノートに何か書きこんでいた。

「製品版の機能に、入れようかしら。『ひざうらモード』」

入れないでほしい。全国の若者のために、入れないでほしい。

「ねえ、透子ちゃん」

木戸さんが、ペンを止めて、透子さんを見た。

「くすぐりモード、自分でも試した?」

「はい」

透子さんは、あっさりうなずいた。

「では、見せます」

透子さんは、私がアシモミ改から足を抜くのを待って、チェアに座った。スニーカーを脱ぎ、靴下を脱ぎ、白衣のすそを直して、両足を穴に入れる。

「くすぐりモード、最大で」

タップ。

アシモミ改の中で、ブラシとローラーが、ぶおんと大きな音を立てて動き出した。私がさっき受けたのとは、比べものにならない音だった。箱全体が、小刻みに震えている。

透子さんは、表情ひとつ変えなかった。

『笑い指数 1』

「……一」

木戸さんが、目を丸くした。

「最大よ? 最大で、一?」

「私は、感じにくい体質なので」

透子さんは、淡々と言って、モニターのデータを確認していた。足元で機械がうなっているのに、まるで足湯にでも浸かっているみたいな顔だ。

ちゃぶ台のほうで、部長が「ほらね」という顔で、お茶をすすった。

透子さんが足を抜くと、木戸さんは、まだ信じられないという顔で、首を振った。

「そういえば、透子ちゃん」

木戸さんが、思い出したように言った。

「品質保証部の鶴見さん、来週見に来るらしいよ」

「はい。聞いています」

「あの人、厳しいからねえ」

木戸さんは、湯のみを両手で包んだ。

「うちのアシモミも、発売前に三回やり直しさせられたの。安全基準がどうとか、耐久試験がどうとか。こういう、くすぐりとか、笑いとか、たぶん、すっごく嫌いだと思う」

部長は、黙ってお茶をすすっていた。

なんだか、嫌な予感がした。でも、それは来週の話だ。

「では、本命の部位に行きます」

透子さんが、タブレットを持ち直した。

「足の裏です」


もう一度、アシモミ改に両足を入れた。

透子さんが、箱の横のダイヤルを回して、中のブラシの位置を調整する。膝の裏に届かないように、ストロークを短くしたらしい。そのかわり、足の裏に、ブラシがぴったり当たるように。

「足首を、固定します」

箱の中で、何かが足首に巻きついた。やわらかいベルトだった。きゅっと締まって、足首が動かなくなる。

「足つぼの位置がずれないように、です」

足つぼの位置。くすぐりモードなのに。

でも、今回は大丈夫だ。私は、膝の上のリモコンを、右手でしっかり握りしめた。今度は、ひじ掛けにしがみつかない。最初からリモコンを持っておく。笑い指数が六十を超えたら、迷わず押す。

さっきは、押せなかった。今度は、自分で止める。

「開始します」

カチッ。

足の裏に、何かが触れた。

ブラシだった。ふくらはぎのときと同じ、細いブラシ。その先が、土踏まずの一番へこんだところを、かかとのほうから指のほうへ、すうっとなでた。

「っ……!」

足の指が、勝手にぎゅっと丸まった。

素足の、足の裏。一日じゅう靴の中にしまわれていて、何かに触られることに、まったく慣れていない場所。そこを、何十本もの細い毛先が、ゆっくりとなでていく。

「くっ……ふ、ふふっ……」

『笑い指数 23』

ブラシが、かかとに移動した。

かかとは、皮膚が少し厚い。くすぐったさが、鈍い。ぼんやりとした、もどかしいくすぐったさ。

「ふふっ、くふふっ……んふふふっ……」

「ふっ、ふふっ……これくらいなら……」

ブラシが、また土踏まずに戻ってくる。

今度は、鋭かった。かかとで鈍くされたぶん、土踏まずのくすぐったさが、針みたいに刺さってくる。

「ひゃっ! ふひゃっ、あはっ、あははははっ!」

『笑い指数 47』

足を引こうとした。ベルトが、足首をしっかり押さえている。足の指を丸めて、土踏まずを守ろうとする。でも、丸めた足の裏の、しわが寄ったところに、ブラシの毛先が入りこんでくる。しわの奥を、こしょこしょとかき回す。

「ひゃっ、ひゃはっ、くひゃははっ、あはははっ!」

「あはははっ、しわっ、しわのとこっ、ひゃははははははっ!」

ブラシが、足の指の付け根へ移動した。

指の付け根の、ふくらんだところ。指と指の間の、水かきみたいになっているところ。

そこが、一番だった。

「ひゃーっ! そこっ、そこだめっ、あっはははははははっ!」

『笑い指数 63』

六十を超えた。

今だ。

私は、右手のリモコンの、赤い丸ボタンを、親指で、力いっぱい押した。

ピッ。

……ブラシは、止まらなかった。

それどころか、ほんの少し、速くなった気がした。

「あれっ、あはっ、あれっ、とまらなっ、ひゃははははっ!」

気のせいだ。押し方が弱かったんだ。もう一回。

ピッ。

ブラシが、また少し速くなった。

「ひゃははっ、ひゃっ、あははははははっ!」

さわさわ、だったのが、しゃかしゃか、になった。

「なんでっ、なんでぇっ、あははははははっ、はやくっ、はやくなってるっ、ひゃははははっ!」

気のせいじゃない。でも、止まらないなら、押すしかない。押せば止まるはずなんだ。だって、停止って書いてある。

ピッ。ピッ。

しゃかしゃか、が、しゃかしゃかしゃかしゃか、になった。

「ひゃーっはっはっはっはっ! とまってっ、とまってってばぁっ、あっはっはっはっはっはっはっ!」

『笑い指数 78』

モニターの横に、小さな数字が出ていた。『速度 10』。さっきまで『速度 6』だった気がする。でも、笑いすぎて、目がにじんで、よく見えない。

ローラーまで、動き出した。

ブラシが土踏まずをかき回している間に、ローラーが、かかとをぐりぐりと押してくる。押されて、足の裏の皮膚が、ぴんと張る。張ったところを、ブラシがなでる。

ぴんと張った皮膚は、くすぐったさを、まるごと受けとめてしまう。

「あははははははっ、ひゃははっ、あっははははははははっ!」

「あっひゃひゃひゃひゃっ! ろーらーっ、ローラーもっ、ひゃははははははははっ!」

右手が、勝手にリモコンを連打していた。

ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。

止まって。止まって。止まって。

ブラシは、そのたびに速くなった。

「ひゃーっははははっ、なんでっ、なんでよぉっ、あーっはっはっはっはっはっ!」

「ねえ、透子ちゃん、見て。土踏まずの反応、すごいわね」

足元のほうで、木戸さんの声がした。いつのまにか、木戸さんと透子さんが、モニターの前に並んでいた。

「はい。かかととの差が顕著です」

「かかとで鈍くしてから土踏まずに戻ると、跳ね上がるのよ。ほら、ここ」

「足指の付け根との差も、取りたいです」

「取りましょう取りましょう」

二人は、真剣だった。真剣に、私の足の裏の話をしていた。

「あはははははっ、ふたりともっ、こっちっ、こっち見てっ、ひゃはははははははっ!」

「見ています、データを」

透子さんは、モニターから目を離さずに言った。

データじゃなくて、私を見て。

『笑い指数 86』

左の足の裏と、右の足の裏で、ブラシが別々の動きを始めた。左は、土踏まずを縦になでる。右は、指の付け根を横にかき回す。左右でまったく違うくすぐったさが、同時に、下から突き上げてくる。

「ひゃあっははははっ、りょうあしっ、りょうあしはだめっ、あーっはっはっはっはっはっはっ!」

足の指が、開いたり閉じたりする。ベルトで押さえられた足首の先で、指だけが、必死に逃げ道を探している。でも、箱の中に、逃げ道なんてない。

「あっひゃひゃひゃひゃっ、ひゃははははははっ、あはははははははっ!」

ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。

「くひゃひゃひゃっ、ひゃははははははははっ、あはははははははははっ!」

『笑い指数 93』

『速度 18』

ブラシの音が、もう、さわさわでも、しゃかしゃかでもなかった。じゃーっ、という、雨みたいな音になっていた。

「ひゃははははははははっ、あめっ、あめみたいっ、ひゃーっはっはっはっはっはっ!」

「あーっはっはっはっはっはっはっはっ! ひゃーっははははははははははっ!」

『笑い指数 99』

『計測範囲外』

赤い文字が、点滅し始めた。

「出たわね、範囲外!」

木戸さんが、嬉しそうな声を上げた。

「通算、十一回目です」

透子さんが、淡々と記録した。

記録しないで。

「きゃーっははははははっ、とめてっ、とめてくださいっ、あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

足の裏の、どこを触られているのか、もうわからなかった。足の裏全体が、ひとつの大きなくすぐったいかたまりになって、そこから笑いがあふれ出してくる。

「あはははははははははっ、ひゃっはっはっはっはっはっはっ、あーっはははははははっ!」

ピッ。

「ひゃあぁぁっはははははははははっ! あーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」

そのとき、透子さんが、ふとモニターの横の数字に目をとめた。

「日向さん」

「はひっ、あはははっ、なっ、なんですかっ、ひゃははははっ!」

「停止ボタンを押すたびに、速度が上がっています」

……え。

「えっ」

私は言った。

そして、言いながら、右手の親指が、反射で、もう一回ボタンを押した。

ピッ。

『速度 20(最大)』

「いやあぁぁっはははははははははっ! あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ! ひゃーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」

じゃーっ、が、ごおーっ、になった。

足の裏で、嵐が起きていた。

「ひゃあぁっはははははははははっ! あっははははははははははっ!」

「止めます」

透子さんが、タブレットをタップした。

ブラシとローラーが、ぴたりと止まった。


私は、リクライニングチェアの上で、ぐったりと天井を見上げていた。

足首のベルトがほどけて、両足が、ようやく箱から出してもらえた。素足のまま、床に投げ出す。足の裏が、まだぴくぴくしていた。コンクリートの冷たさが、今は、ありがたかった。

右手には、まだリモコンを握っていた。

木戸さんが、そのリモコンを、私の手からそっと抜き取った。裏のふたを開けて、中をのぞきこむ。それから、タブレットで何かを確認して、「あー」と声を上げた。

「新人くん、停止と速度アップを、逆に登録してる」

逆。

「くすぐりモードのときだけね。普通のマッサージモードでは、ちゃんと止まるんだけど」

「張り切っていたんですね」

透子さんが言った。そういう問題ではないと思う。

木戸さんは、リモコンを箱に戻すと、私の両手を、がしっと握った。

「でも、最高のデータ! ありがとう、日向さん!」

目が、きらきらしていた。透子さんと同じ種類のきらきらだった。

「足の裏の反応、うちの部のどのテスターよりもすごかった。これなら、若い人にも絶対うける。くすぐりモード、製品化に向けて進めましょう。透子ちゃん、大倉さん、来年の春よ!」

来年の春。商品化。こちょ研の、初めての商品。

ちゃぶ台で、部長が、にこにこしながらお茶をすすった。

自分の足の裏が、会社の役に立った。

それを、喜んでいいのかどうか、私にはまだ、よくわからなかった。

その日の夕方、透子さんが書いた試験報告書が回ってきた。所見の欄には、こう書いてあった。

『停止ボタンが、速度アップとして登録されていた。被験者は計測中に、合計十四回押した。』

数えていたらしい。

最後の一回は、気づいてから押したのも、ちゃんと数えられていた。